本当に、昨今のBL漫画のレベルの高さが大変なことになっていて、たまにBL読んだ男性が「鈴木ツタだけは面白い」とか言ってると、ばか、鈴木ツタが面白いなら他にもあなた面白く読めるのいっぱいあるよ!と叫びたい毎日でございます。
(※鈴木ツタもおもしろいよ!⇒メリーチェッカ(キャラコミックス)

本当に、漫画が好きで少年・少女・青年誌問わず読むような人はBLを避けてちゃ損ですよ。

てことで私の好きなBL漫画家さん、それも、読んでいて「それな!」と感じ入るような漫画を書く方々を紹介しようと思います。


【秀良子】

最近の新人の中で、本当に気持ち良く心に入ってくる、見事な漫画を描く作家さんです。
最初に読んでこれはーーー!となったのが、この『ネガティブくんとポジティブくん』。

ネガティブ君とポジティブ君 (IDコミックス gateauコミックス)ネガティブ君とポジティブ君 (IDコミックス gateauコミックス)
(2011/03/15)
秀良子

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急な変更に対応することが難しくて、いつもきっちり完璧に計画を立てる「ネガティブくん」こと藤原くん。
成績はいいけれど、友達はあまり多くないよう。たぶん、くるくる変わるとりとめのない会話についていくのが難しいんじゃないかと。

「ポジティブくん」こと橘くんはその点、特にくるくる変化する、とりとめのない、藤原くんにとって一番意味不明なタイプのはずなんだけれど、2人はカップルでいつも仲良し。なぜ正反対の2人がうまくいくのか、よくわかるエピソードが、5話。

「日曜日どっか遊びに行こう!」「純ちゃん(藤原くん)の行きたいとこ!」と誘う橘くん。
途端に言葉につまり、焦って手帳を探す藤原くん。
橘くんは「純ちゃんゆっくり、ゆっくり考えていいから」と声を掛けます。

かなり膨大なレジャー関係の資料を集め、付箋をたくさんつけてチェックしてきた藤原くんに、橘くんは「どこに行くか一緒に決めよう」と笑顔で応えて、2人ともまだ行ったことがない「ネズミーランド」に行こうと決める。

ところが当日は大荒れの台風。それでも、変更が苦手な藤原くんは計画を実行しなきゃ、と出発しようとする。すると橘くんはとことん付き合うと決めて、一緒に家を出る。
ガラガラの電車は非常停止し、予定は狂っていく。
しかし橘くんが一言、「楽しいね」。
「俺こんな日に遊びに行くのはじめて」。
橘くんが楽しんでいるとわかって、藤原くんは「うん、俺もはじめて」と、ほっとしたように微笑む。

藤原くんが混乱している時、いくらでも時間をかけていい、と構えていられる橘くん。
すばやく臨機応変に、なんてしなくていいから、計画が崩れたら、ゆっくり一緒に立て直せばいい。


一方橘くんは、頭が悪い。底抜けに明るいけれど、支離滅裂で言葉の前後がめちゃくちゃなタイプ。

3話で藤原くんのメガネが壊れてほとんど何も見えなくなった時、橘くんは、自分を頼ってつかまってくる藤原くんに気を良くして、いろいろ嘘をつきます。
学校の廊下で、段差があるから、と言って手をつなぎ、水たまりが、アリの行列が、バリア地帯が、と言ってぴったりくっつき。あまりにも下手な嘘なのに、本当にバレないと思っていたようで。

…読者としては、橘くんは本当は頭が悪くないんじゃないかな、と思うところがあります。
なんというか、〈バレる嘘とバレない嘘〉とか、〈伝わる言葉と意味不明の言葉〉とか、そういう判別が難しいタイプなだけなんじゃないかな、と。
とうぜん藤原くんは嘘だと気付いているのですが、気付かないフリをしてあげていると、見えない藤原くんの世界に、空想の水たまりやアリの行列やバリア地帯が広がります。この時の藤原くんはいつになく楽しそう。

…こんな風に、2人はお互いのダメなところ、バカなところ、かっこ悪いところを柔らかい心で毎回毎回ちゃんと受け止めていきます。そういう素敵な話が他にもいっぱい入った本です。


【岡田屋鉄蔵】

まず、この作家さんの公式サイトか、ぽこぽこの連載ページで、この人の絵を見てみてほしい!

漫画家には素晴らしい絵を描く人が本当にたくさんいて、現代の浮世絵師は漫画家だなあ、と思うことは多々ありますが、この人もまさに〈絵師〉といった感じがします。
こういう骨太の絵を描く(線が太いとかガチムチって意味ではないよw)作家に、ダメな作家はいないですよ、本当に。

ストーリーの組立も見事で面白い。
最近のコミックス『千―長夜の契』は特に、岡田屋さんの人間性の深み、温かみも感じさせる素晴らしい作品。
しかしこの作品はBL要素がかなり薄い。また、ぽこぽこの連載はBLではないけれど、すごく面白い。
ああ、これは今市子とかよしながふみとかヤマシタトモコみたいに、「BLじゃない作品の方が面白い」と言われちゃうパターンかな、という寂しさも…

しかし、この人の描く男同士の「まぐわい」のシーンは迫力があります。
江戸の春画だって芸術的な評価を受けるのだから、漫画の性交シーンを芸術的に評価したって良いでしょう!
元々筋肉を描くのが得意(というか好き)なだけあって、筋肉と筋肉がぶつかり合う(←?)その性交シーンは、美的にかなりイケてます。

この人は、きっと〈絵師として〉ゲイセックスを描くことからは離れてはいかないはず!と願いを込めて信じています。

千-長夜の契 (HANAMARU COMICS PREMIUM)千-長夜の契 (HANAMARU COMICS PREMIUM)
(2010/09/17)
岡田屋 鉄蔵

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【ARUKU】

旧名・遙々アルクさん。
この人は本当にわけわかりません。
ARUKUの絵を、「癖が強くて苦手」と評する方が時々いますが、違います。
癖じゃありません、下手です。

物の大きさがバラバラ、人体がいびつ、背景がくるってる。
ここまで来るとわざとかという疑惑も…いやわからないけれど。

しかし、この人の描く社会的〈弱者〉には、あまりに深みと重みがある。
読者それぞれの〈弱者〉的部分にそのまま重なってくるような、しかし、どこか心強いような。

ちょっと前のNHKの特番で無縁社会の特集をやった時に、「自己有用感」という言葉が使われ、少し問題にもなりました。
ARUKUの描く主人公の多くはまさに、「自己〈無用〉感」を体現したような人物。
何の能力もなく、もしくは障碍による標準的な能力の欠如があり、誰からも必要とされない。
そして、そんな「いらない人」相手に、なぜか恋に落ちてしまうのが、能力があり「自己有用感」を持ちながらも、〈孤独〉な男。

BLにおいて、「なぜ男同士なのか」という疑問がよく呈され、そんなものは「なぜ異性愛なのか」という逆質問で覆せるつまらない質問ですが、
ARUKUの場合は両者がそれぞれに〈男〉として描かれることに、意味があるように思います。
無用な人物となることも、有用な人物でありながら自らの孤独に囚われて道をそれる(→無用な人物に惹かれてしまう)ことも、今の日本社会では「男らしくない」ことだから。
〈弱者〉は本当に〈弱い〉のか。本当の孤独とは。絶望とは。
ぎこちなく微妙に答えをぼかしながら、無視せざるを得ない問いを突きつけてくるような、不思議な漫画。

たぶんこの人は天才か努力家か、などといった漫画家のタイプでいえば間違いなく規格外の「鬼才」型。こういうおそろしい人がBLというジャンルから出ちゃってることを、もっと多くの人に知ってほしいものです。
一度ハマれば、いびつな絵さえいとおしい。むしろこの絵でなければ、とさえ思います。

ビター×スイート (ビーボーイコミックス)ビター×スイート (ビーボーイコミックス)
(2007/11/10)
遙々 アルク

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猿喰山疑獄事件 (ビーボーイコミックス)猿喰山疑獄事件 (ビーボーイコミックス)
(2009/07/10)
遙々 アルク

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まだまだ紹介したりないのですが長くなりすぎるので、ここからは一言ずつで紹介していきます。


【桜巳亞子】
ギャグセンスが頭おかしい。この人のギャグはもっと注目されていい。真面目な顔ももう全部ギャグにしか見えない。
クマより愛して (アクアコミックス)
【内田カヲル】
ぱつぱつの雄っぱいとどっしりとしたお尻の筋肉おじさんが「可愛い可愛い」と愛でられるのを見て、なんだかすごく心が癒される不思議。
飴と鞭 (バンブー・コミックス 麗人セレクション)
【腰乃】
ぷるぷるしている。めっちゃよくしゃべる。けどなぜかすれ違ってる人たち。独り言のようにぶつぶつと横道にそれ、なかなか伝え合えない。
あっちとこっち (ビーボーイコミックス)
【トジツキハジメ】
この人の絵もどんどん芸術的になる。ストーリーの明晰さと悪ノリと。ヨー、マイメン、ヘイタ、とか言いたくなる。
物語は死で終わらない (Dariaコミックス)

……まだまだいい作家はたくさんいるのですが完全に私の好みでおすすめでした。以上!
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