12・16後、みなさんいかがお過ごしでしょうか
私はとりあえず戦地で死ぬ想像は済ませました。

そんな折、ふと読み返したのが市川ジュン『陽の末裔』です


陽の末裔 1 (YOU漫画文庫)陽の末裔 1 (YOU漫画文庫)
(1996/04/23)
市川 ジュン

商品詳細を見る


東北の農村から出て12、13歳で紡績工場の女工となった卯乃と咲久子。
女工の過酷な労働環境に「黙っていられない」という思いから立ち上がり、新聞記者となって女性解放運動の道をゆく卯乃と、「女」を武器に、美しさと魅力で華族としてのし上がる咲久子。

大正デモクラシーから関東大震災、普通選挙と社会主義弾圧、そして戦争…。日本がたどった歴史と、その中で生きた女性の姿。
性格も生き方もまったく違う2人だが、どんな運命にも自分自身を貶められることのない誇り高さは、共通している。そして何があっても揺るがない2人の友情。


改めていま読んでみて、この作品の時代に起こっていること、語られていることが、なんと今の時代によく似ているのだろう、と驚きました。
言論弾圧から始まり、国政の中で軍の力が強くなり、戦争へ向かう。
大きな地震。
普選の実施にともなう、「誰もが生まれつき持っているべき権利」なのか「義務遂行とひきかえに与えられる権利」なのかという議論は、現在の、憲法改正や生活保護に関する話題にも共通している。
そして、原子力の脅威。

ああ、こういう時代を、かつての日本の人々はすでに生き抜いたのではないか、と思いました。
物語は、戦後まもなく婦人参政権を獲得する卯乃と、財閥解体によってすべての財産を失いまったく新しい道へ歩みだす咲久子を描いて終わっている。
そしてこう締められている――

――何も
終わったわけではない

ひとりびとりの人生も
女性たちの解放も
日本の歩む道程も

すべては また 始まる

いい尽くせぬ思いを抱えながら
時代は常に未完成であった


まだまだ絶望してはいけないと思いました
この時代を生きた女性たちに恥じぬように。


しかしこの漫画、社会運動やフェミニズム的なエンパワーの要素もいいんだけれど、キャラクターもめちゃくちゃ良いです(>_<)
とくに主人公の2人は素晴らしい。

私はやっぱり、女王・咲久子のファンです。
常に言葉の終わりまではっきりと言い切るような物言いが素敵で、上手い役者さんにせりふを言ってほしくなります。
一夜を共にした男でも「呼び捨てにしないで」と張り飛ばし、「貴婦人としての誇り」よりも「咲久子としての誇り」が大事だと断言する。

だけど、彼女はたったひとりの親友・卯乃をのぞいて友達を作ることはできなかった。女性同士協力し合うことができず、つねに競争し、相手をねじ伏せ、上に立つやり方しかない。
まあ、華族社会で夫のオマケの花になって満足している「貴婦人」という人たちなんてねじ伏せて、男にも女にも誰にも汚されない誇りを持つ自分が頂点に立ってやる、というのが、咲久子らしい志の示し方なのでしょう。

卯乃はその点、仲間を作っていくところが良い。
たった一人自分の道を切り開く戦いをする咲久子に対して、卯乃は仲間とともに歴史を切り開く戦いをしていく。
地味に見えて実は咲久子より大きなことに挑んでいるというのが面白い。

卯乃が作った「女たちの会」は主義思想を超えて女性の問題でつながり共闘する会。
フェミニズムって主義思想じゃないの?と思ったんだけれど、私自身、保守と自ら名乗る女性でも、職場の不満を聞くともうかなりフェミそのものなことを言っていたりするのを知っているので、この感覚はやはりたしかに、主義思想とかいうレベルのものではないんだ、と感じます。

しかし卯乃ほど先進的な女性でも、男に対しては家で食事を作って待っているのが当たり前になっててぐぬぬっとなる。(最終的に夫になる人とはまた違うんだけど…)
男性との関わり方においては圧倒的に咲久子の方が誇り高いよね。
咲久子は、ある2人の男性に対しては、「友情」を求めるような感じもあったなあ。でも咲久子自身もそれを「友情」という言葉で呼ぼうとはしなかったし、その時代に男女の友情なんて概念はなかったんだろう。
その2人の男性も最終的には咲久子を女として扱ってしまう。
男女の友情という言葉すらなかったことは幸だったか不幸だったか。

どちらの良いところも兼ね備えた主人公だと、完璧すぎて近寄りがたい人物になってしまう。
それを2人に分けて、正反対のようで実はとても魂の近い女性を描いた市川ジュンの上手さ。
相容れないように見える女性たちも、じつは女として同じ問題に立ち向かっているのではないか?という問いかけでもあるのかもしれない。
スポンサーサイト

コメント

いいね

コメントの投稿

  • URL
  • コメント
  • パスワード
  • 秘密
  • 管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURL:http://sanpoapril.blog104.fc2.com/tb.php/200-aec3d32c