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――(セラミックガール)恋をしたいから
  (say love me girl)テレパシー信じて
  (セラミックガール)この気持ちだけは
  (It's brave new world)作り物じゃないでしょ――


第七話 『Butterfly』





「次は、どんな曲?」
透明のホールのような塔の部屋に、新しい音楽が鳴り響く。
それは初めて聴く曲だけれど、3人は当然のように歌い、ダンスする。
「今度の曲もいい曲じゃね」
「もう一回いっとく?」
のっちに肩を叩かれ、あ~ちゃんははっと、とび上がった。
「あ……うん、じゃね」
「どうかした? あ~ちゃん」
「疲れたんなら、ちょっと休もっか」
「……」
あ~ちゃんは、天井の中央にぶら下がっている、銀色の球体を少し見上げたようだった。
「……ううん、ちょっとぼんやりしとっただけ」
そう言って、あ~ちゃんはにっこり笑う。
また新しい音楽が、流れ始めた。

この、陶器で出来たような城が、あの“世界”を守っていることを3人とも、もうよくわかっていた。
ここで3人が歌ったり踊ったり、しゃべったりすることから起こる空間のふるえが“世界”でおこる出来事、あらゆる存在、そしてその思いのすべてなのだと。
“世界”は、天井にぶら下がる球体の中にあって、朝と夜を繰り返している。それとともに、城の中も明るくなったり暗くなったりするから、そのことだけが“世界”と3人がつながっていることを感じさせた。

「あれ?」
あ~ちゃんが声をあげた。
かしゆかとのっちが振り返る。
「向こうの方に、青い服の女の子がいたみたいに見えたの……10歳くらいの」
「やだ、あ~ちゃん、ここには私たちしかいないはずだよ」
「見間違いじゃない?」
「そうね……」
あ~ちゃんはもう一度、銀色の球体に目をやった。

                              ●

「視線?」
あ~ちゃんはのっちに、「そう」と頷き返した。
「こうやって“世界”を見つめているとね、向こうからも見つめられとるように感じるのよ」
「ふえ~」
のっちはよくわからないような相槌を返して、自分も天井の“世界”を見上げる。
三角座りで2人見上げていると、ちょうど下の階から上がってきたかしゆかが、くすくす笑った。
「2人して何しちょるん」
「なんかあ~ちゃんがねー」
その時、あ~ちゃんが突然立ち上がった。
「やっぱりいた!」
そう言って駆け出す。
「あ~ちゃん!? 何がいたって?」
「青い服の女の子!」
あ~ちゃんは塔の階段を下っていく。慌てて2人もそれを追いかけた。

階段の踊り場に、あ~ちゃんの銀色ドレスがきらめくの見つけて、2人は駆け寄った。
「見失った~…」
「ねえあ~ちゃん、ほんとに女の子がいたの? 私見とらんよ」
「のっちも~」
「いたんだけど……フッてここで、消えちゃった……」
2人は目を丸くする。
「消えちゃった?お化けみたく?」
「うーん、お化けかなあ……フワッて浮かんだらサーンて消えちゃったの」
「え~」
2人は首をかしげる。
「あっ」
またあ~ちゃんが声を上げた。2人はあ~ちゃんの視線の先をたどる。
城の扉が少し開いて、隙間から光が差し込んでいた。
「……! たいへん!」
「ね、見たでしょう!?」
2人が「え?」とあ~ちゃんを振り返る。
「扉の隙間から、女の子が覗いてたの、わかったでしょ?」
2人は顔を見合わせた。
「女の子は……見なかったよ」
のっちの答えに、あ~ちゃんはかしゆかに視線を送る。けれど、かしゆかも困惑顔で首を横にふった。
「ほんとよ、ほんまにいたんて……」
あ~ちゃんはそう言って扉に駆け寄った。
「あ~ちゃんだめ!」
開こうとしたドアを、寸でのところで2人が押さえた。
「開けたらだめだよ……」
「外は、いろんな夢がめちゃくちゃに混ざってて、迷ったらもう戻れないかもしれないところなんよ」
2人に諭されて、あ~ちゃんはうつむいた。
「……わたし、戻りたいよ」
「だったら、外に出ちゃいけんよ」
かしゆかの言葉に、あ~ちゃんは首を横にふる。
「元の、大学生で、テクノポップユニットのPerfumeに、戻りたい」
あ~ちゃんが言うと、2人はいっそう困った顔になった。
「……そりゃそうだけど……」
「……戻れんけえね」
その言葉に、あ~ちゃんがぱっと顔を上げた。
「それ本当かな?」
その目は真剣で、何か凄みさえ感じさせる。2人は勢いにのまれて、あ~ちゃんの目を見つめ返した。
「夢の中に、現実のお城がぽつんと建ってるなんて、なんか変よ」
2人は顔を見合わせる。そういえば、そうかもしれないけれど……それが夢か現実か、どうやって見極めたらいいんだろうか。
「何が現実で何が嘘かなんて、もうあんまりどうでもいいの。でもあの世界で見てきた、意地悪な人も大好きな人も、みんな嘘っこのゲームだったなんて思いたくない」
「……でも……じゃったらどうするの?」
かしゆかが問う。
「……この扉を開ける。そんで、あの女の子を追いかけてみよう」
「だって、全然別の、知らない世界に行っちゃう可能性の方が高いんよ!」
「それでも立ち止まってるより、迷っている方がどこかに進めるじゃろ。あの子が現れたのは、何か始めにゃあいけんって合図みたいな気がする」
黙っていたのっちが、ふいに2人の腕に触れた。2人はのっちを見る。
「……いいよ行こう」
「のっち!」
2人が同時に叫んだ。
「だって今までだって、前もなんも見えないけど、あ~ちゃんのポジティブを信じてやって来たんだもん。ここでぼんやりしてるの、なんかPerfumeらしくないと思う」
かしゆかが不安気に問う。
「けど、はぐれたりせんかな」
「手をつないでよう」
のっちが2人の手を取った。
自然とあ~ちゃんとかしゆかも手をつないで、いつもの気合い入れの形になる。
「大丈夫よ」
「はぐれたりしないね」
「……行こう。」
3人一列になって手をつないだまま、あ~ちゃんのもう片方の手が、扉を押した。

爪先からまっすぐに落下していくのがわかる。
周りはしばらく真っ暗闇が続いて、それからちらほら、蛍のような、小さな灯りが眼下に広がり始めた。3人の手は、つないだままだった。

                              ●

いつの間にか、足の下に地面があることにあ~ちゃんは気づいた。
「のっち! かしゆか!」
2人は突然起こされたみたいに、はっと目の焦点を合わす。
「あれ? ここどこ!?」
「なんかぼーっとして、くらくらしてる……」
そこは、暗い建物の中だった。周りを見渡そうと振り返った3人は、「あっ」と声を上げた。大きなステンドグラスの窓が、天井の高い左右の壁を飾っている。そこから差し込む光に七色に照らされて、十字架のキリスト像が闇にぼんやり浮かんでいた。
「ここ、教会?」
そのとき背後の扉が開いて、3人はびくっと飛び退いた。初老の女性が怪訝そうに3人を見てから、十字を切って奥の席へと入っていった。
3人は顔を見合わせる。あ~ちゃんが、黙って女性が入って来た扉を押し開いた。

それは、外国の町のようだった。3人は古い写真くらいでしか見たことがない雰囲気だ。ちょうど日が沈んだ頃だろうか。
黒い煙を吐き出す車が、人が歩くのと同じ高さのコンクリートの道を走っていて、空気が全体に灰色のような気がしてくる。けれど、広い庭にこじんまりとした家は、可愛い町並みだ。家の周りを色とりどりの電飾が取り囲んでいるのは、クリスマスが近いからだろうか。
3人は教会の外階段を降りて、道に立った。
その時3人のところへバイクが突っ込んできた。
「きゃっ」
階段の上に倒れるようにしてなんとか避けると、バイクから降りたおじさんが駆け寄ってきた。
「大丈夫かいお嬢ちゃんたち!」
3人は起き上がる。なんともないようだ。
「大丈夫です」
「そりゃあよかった。すまんかったね。いつもはこんなことないんだが、お嬢ちゃんたちが全く見えなくて……俺も老眼かなあ。それにしても見かけない顔だね、どっからおいでだい」
よくしゃべるおじさんに少し面食らいながら、あ~ちゃんが答えた。
「私たち、人探しをしてるんです」
「何? そりゃ大変なこった」
本当はまず、ここはどこで一体いつの時代なのか知りたいのだけれど、そんなことを突然聞いたら怪しまれるに決まっている。
「青い服の、こんくらいの女の子なんですけど」
「う~ん、ローランドんちの末っ子はよく青いべべ着てるけど、ありゃまだ3つの赤ん坊だしな」
「3歳ですか! 可愛いでしょうね」
かしゆかがふいに口を挟んだ。
「いんや~、うちの孫なんかまだ1歳だからね。子供は小さいうちがうんと可愛いもんさ」
子供好きのあ~ちゃんが本気で話に食いつきそうになるより先に、すかさずかしゆかが、
「1歳ってことは、何年生まれ?」
2人はかしゆかをはっと見つめた。
「2008年だよ! 1000年代と2000年代だもんな、同じ人間とは思えんよ」
そう言っておじさんは豪快に笑った。3人は顔を見合わせた。
「ありがとうおじさん!」
3人が去ろうとすると、
「いやいや、待ちなお嬢ちゃんたち!」
あわてておじさんが呼びとめた。
「人探しなら集会所に行ってみたらいい。送ってってやるよ」
「いいんですか!」
「ああ、ぶっつけそうになったお詫びだよ。教会に届け物があるんでちょっと待っててくれ」
おじさんが袋を抱えて教会の中に入るのを見送ると、2人がかしゆかの肩をたたいた。
「かしゆか! グッジョブ!」
「でも聞いた? 500年前ってこと?」
「ひえ~! どうしよう!」
じたばたしているうちに、おじさんが戻ってきた。
「待たせたな、そこの荷台に乗りな」
バイクの横にくっついた荷台に3人が乗り込む。
「こんなに乗っちゃって容量オーバーじゃない?」
「なあに、いつもはお嬢ちゃんたちなんかよりずっと重いもん運んでるよ」
バイクは走り出した。風にはためくスカートを、荷台と自分たちの隙間にぐいっと突っ込む。途中通り抜ける大きな広場は、さすがに商店らしい大きな建物もあって、少し賑わっていた。中央には立派なクリスマスツリーが飾付けられている。
その時、あ~ちゃんは、ツリーの影に青い服の少女の姿を見た。
「……あ……!」
思わず立ち上がりそうになったあ~ちゃんを見つめて、少女は少し微笑んだようだった。そして、次の瞬間、バイクの前に躍り出た。
「うわあっ」
おじさんが叫んで、避けようとしたバイクが横倒しになる。
「……っきゃー!」
3人の乗った荷台は、バイクから外れて車道を勢いよく転がり、果物を積んだトラックの端にぶつかって、そのはずみで狭い路地へとふっ飛んだ。3人も荷台から投げ出される。うつぶせに倒れたまま、互いに顔を見合わせた。……3人とも無事だ。3人は立ち上がった。
路地をふさぐように、バラバラと果物が落ちる。その向こうで、おじさんが起き上がるのが見えた。どうやら、怪我はないようだ。
と、その瞬間あ~ちゃんは、自分のすぐ横をすり抜ける青いものに気がついた。急いで振り返る。
「待って……!」
2人もあ~ちゃんの呼びかけた先に目をやった。そこには、つきあたりの家から出てきた老人がいた。
「おじいさんその子捕まえてー!」
老人は目を丸くしてこちらを見た。その老人の横もすり抜けて、少女は彼が出てきたそのドアの中へ入った。
あ~ちゃんたちが老人のそばまで駆け寄る。
「あの、今家の中に女の子が入っていきましたよね?」
「うんあ~ちゃん、今のは私も見たよ!」
のっちが言うとかしゆかも頷いた。
「おじいさん、私たちあの子を探してたんです」
「女の子……?」
老人は3人を測るように見つめてから、すっと背を向けた。
「私には、青い蝶がまぎれこんだように見えたが……まあいい、入りなさい」

                              ●

本だらけの家だった。
3人にとっては本なんて中のデータを入れ替えるもので、大学の教授だって持っていて数冊といったところなので、こんなに大量の紙の冊子が集まっているを見るのは初めてである。
老人は黙って奥の部屋へさっさと行ってしまった。3人は奥へ入っていいのかわからず、本に埋もれて立っていた。しばらくすると、老人が戻ってきた。
「2階も見てみたが、女の子も蝶も見当たらなかったよ」
そういってから老人はすっと、大きくて薄い本を差し出した。
「私にはこんな蝶だったように見えたね」
表紙に鮮やかな青色の蝶が描かれている。金色がリボンのように散りばめられていて、そこだけ紙質が違うようだった。あ~ちゃんが思わず、その金色の部分に触れてみる。
「きれいですね……」
3人の時代の絵本は特殊なディスプレイに表示されて、もっとリアルに様々な色や形を表現できるものだった。でも、この紙の絵本には、それらにはない不思議な美しさがあった。
「気に入ったかね」
老人はそのまま絵本をあ~ちゃんに渡すと、ぎしぎし言う揺り椅子に座った。そしてこう言った。
「ところで、君たちの話している言葉は一体なんだ」
3人は突然の質問の意味がわからず、老人の顔を見る。
「英語ではない。しかし私は君たちの言葉を理解し当たり前のように会話している。テレパシーのような伝達方法を、脳の防衛本能が口頭の会話と錯覚させているのか?」
3人は答えられなかった。たしかに、外国人らしき人たちと普通に会話していたのに、そのことに今まで気づかないでいた。
でも、どうしてこの老人は、それがわかったんだろう。
「……どうやら、君たちにもわからないようだね」
「私たち、500年後の日本から来たんです」
あ~ちゃんが言って、2人は驚いてあ~ちゃんを見た。
「私たち元いた世界に戻りたいけど、方法がわからないんです。ヒントはあの女の子だけで……」
老人は眼鏡の縁の上からじっとあ~ちゃんの目を見つめる。あ~ちゃんも真剣な瞳で見つめ返した。すると老人は、ふっと笑ってそらした。
「未来からの来客か……これは私の夢かな?」
「え……あ、でも、これは私たちの夢のはずなんですよ?」
「……それでは私が未来人の夢に呼ばれたということか。しかしこの場合主語の変化に大きな意味はあるだろうか」
あれ? でも、夢には時間や空間が無いのだっけ? 3人も頭がごちゃごちゃしてわからなくなってくる。
「……あの、私、おじいさんなら、何かわかるかもしれないと思ったんだけど……」
「夢というのは、自分の思い通りになるとは限らないからね。しかし夢ならば、物理的要因よりも、君たちの心理的要因の方が影響を与えうるということは、あるかもしれない」
「……どういうことですか?」
「君たちが今いるのは、本当に2009年のアメリカ人の家か。君たちの夢ならば、もっと君たちにふさわしい場所にいるべきだろう」
「ふさわしい場所……」
視界が、ぼんやりしてくる。老人の顔が水の中のように、よく見えなくなる。
「その本は持っていくといい。唯一のヒントなんだろう」
老人がそう言った瞬間、目の前は水の泡のようなものに包まれて何も見えなくなった。

                              ●

あ~ちゃんは、草の上で目を覚ました。腕の中に蝶の表紙の絵本があった。
そこは、広い草原だった。遠くの方に地平線が見えている。すぐそばにかしゆかとのっちも眠っていた。2人を起こそうとして、あ~ちゃんは草の向こうに見覚えのある姿を、目に留めた。
「……う~ちゃん?」
う~ちゃんがいるっていうことは、ここは月なんだろうか。
近くに行こうと立ち上がって、そこであ~ちゃんはぴたりと動きを止めた。
――青い服の少女だった。少女はう~ちゃんに近づき、そっと抱き上げる。
「あなたは……」
少女はう~ちゃんを抱いて、こちらのすぐそばまで歩いてくる。あ~ちゃんはその顔を見て、はっと息を呑んだ。
「……やっとわかった?」
少女が微笑む。
「私はあなたよ」
その笑顔はたしかに、あ~ちゃんだった。
あ~ちゃんは黙ったまま少女を見つめ、それから少女の腕の中で動かないう~ちゃんを見つめた。
「……う~ちゃん、どうしたの?」
あ~ちゃんが問う。
「どうもしない。これは、しゃべり出す前の、ただのぬいぐるみだったう~ちゃん」
あ~ちゃんは時間がめちゃくちゃに混ざっている、と思った。目の前にいるのは、過去のあ~ちゃんと、それよりもっと過去のう~ちゃん。
「時間は最初から矛盾しているのよ」
あ~ちゃんの心を見透かすように少女のあ~ちゃんが言う。
「それは夢だから……?」
少女はうふふ、と笑った。あ~ちゃんの笑い方だ。
「夢と現実って、そんなに違うもの?」
「……どういうこと?」
「う~ちゃんの心は、あ~ちゃんの夢から生まれたけど、存在しているよ」
少女は近づき、う~ちゃんのふわふわの手を、あ~ちゃんの持っている絵本の表紙に重ねた。
「夢も現実も、『存在している』ということは同じでしょう」
う~ちゃんの手を、そこからそっと離した瞬間、表紙から青い蝶がふわりと舞い上がった。あ~ちゃんの目線は蝶を追う。
『たくさんの人の夢が混ざりあったら現実になるかな……』
そう言った少女の声にはっと振り返ると、あ~ちゃんの立つその場所には、もう草原はなく、少女もう~ちゃんもいない。
かしゆかとのっちがあ~ちゃんの足元で目を覚ました。
『ほら……3人の存在する場所は……』
声は頭上からした。そこには、青い蝶が一匹舞っている。蝶の羽から青い光の粉が3人の上に降り注ぐと、3人の服はキラキラ輝く、濃い青の衣装になった。
「3人の居場所……ライブ……!」
あ~ちゃんが声に出したその瞬間、目の前が眩しく輝く。スポットライトだ。

音楽と歓声が3人を包みこんだ。



最終話『Twinkle Snow Powdery Snow』へ続く
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