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――(セラミックガール)恋をしたいから
  (say love me girl)テレパシー信じて
  (セラミックガール)この気持ちだけは
  (It's brave new world)作り物じゃないでしょ――



第6話 『シークレットシークレット』





月が逃げる。のっちはそれを、走って追いかける。

そこは、秋葉原のようだった。狭い路地に、雑然と店先を飾るメカの部品が、去り続ける真ん丸い月の光を斜めに浴びて、きらきらとのっちの目に眩しい。
(あれ? なんでのっち、こんなことしてるんだっけ?)
「ゲームだよ」
言葉の聞こえた方向を見ると、店頭で新作ゲームのPR画面を眺める少年だった。
(あ、そうだ。ゲームだった。月を追いかけるゲーム……)
ゲームの中にゲームだなんて変なの、と、のっちが思ったその瞬間、月がビルに消えた。
そのビルを見上げると、月が、高い小さな窓の中に入っていた。窓に映っているんじゃない。ビルの中から、月がこちらを見下ろしているんだ。のっちはビルへ向かって駆け出した。
ビルの入り口はアルミサッシの引戸だった。自動ドアじゃないなんて、まるで歴史的建造物だ。のっちが戸をぐっと横に引くと、意外に軽く、がらっと開いた。

「……のっち!?」
目の前に、かしゆかが座っている。
「かしゆか!? ……って、ここどこ?」
この景色は、神社の境内だ。
ビルの、「外から中へ」入ろうとしていたはずなのに、これじゃまるで、お社の「中から外へ」出ようとしている格好だ。
「のっち、かしゆか!」
聞きなれたその声の方を見ると、鳥居の足元にあ~ちゃんが立っていた。
「どうしたん2人とも? こんなところで」
「あ、あ~ちゃんは?」
のっちがとっさに聞き返す。
「ここは、私の近所の神社さんよ」
「ええっ?」
そのとき、かしゆかが小さく「あっ」と声を上げた。
「のっち! 月!」
見ると、確かに月がお社の上に浮かんでいる。そしてすうっと移動を始めた。
「追いかけんと! のっち!」
あ~ちゃんが急かす。そうだ、月を追いかけるゲームだった。
かしゆかとあ~ちゃんが、のっちより先に走り出す。
「ま、待ってっ」
お社の左手の林の中へ入っていく2人を追って、のっちも駆け出す。
(アレ? でも、ゲームってことは、あ~ちゃんとかしゆかもゲームの中の人間ってこと?)
林の木々の、枝や葉っぱが月明かりに照らされて銀色に輝く。それはなぜか秋葉原のメカの部品たちにも似て、眩しくて前が見えないくらいだ。
のっちはとっさに目の前のかしゆかの腕に、つかまった。
ポコッという音がした。のっちの手には、ひじから下だけの腕……
「ひゃあああっ!」
だけどよく見ると、それはマネキンの腕だ。感触も固い。
「なんだあ、びっくりした。かしゆかの腕抜いちゃったかと……」
呟いたのっちは、一歩踏み出して立ち止まった。さっきのあ~ちゃんとかしゆかの格好をした、のっぺらぼうのマネキンが地面に転がっている。
「なんだ……これ。悪趣味……」
のっちは、先に行ったはずの2人を探そうと、林の奥へ目を凝らそうとして……目の前が一枚の扉で完全に閉ざされているのを見た。
「2人とも、この中へ入っちゃったのかなあ」
その扉は心なしかさっきのビルの入口に似ているようだった。
のっちは勢いにまかせるように、えいっとその戸を引いた。

「のっち!?」
目の前に、かしゆかが座っている。神社の境内だ。
「のっち! かしゆか!」
見ると鳥居の足元にあ~ちゃんが立っている。
ふいに、かしゆかが小さく「あっ」と声を上げた。
「のっち! 月!」
見ると、月がお社の上に浮かんでいる。そしてすうっと移動を始めた。
「追いかけんと! のっち!」
あ~ちゃんが急かす。そうだ、月を追いかけるゲームだった。
かしゆかとあ~ちゃんが、のっちより先に走り出す。
「ま、待ってっ」
お社の左手の林の中へ入っていく2人を追って、のっちも駆け出す。
のっちがとっさにかしゆかの腕に、つかまった。その腕がぽこっと抜ける。
「ひゃあああっ! ……って、なんだマネキンかあ、びっくりした。かしゆかの腕抜いちゃったかと……」
呟いたのっちは、一歩踏み出して立ち止まった。あ~ちゃんとかしゆかの格好をしたマネキンが転がっている。林の奥へ目を凝らすと、目の前が一枚の扉で完全に閉ざされているのが見えた。
のっちは、その戸を引いた。

「のっち!?」
目の前に、かしゆかが座っている。神社の境内だ。
「のっち! かしゆか!」
見ると鳥居の足元にあ~ちゃんが立っている。
ふいに、かしゆかが小さく「あっ」と声を上げた。
「のっち! 月!」
「追いかけんと! のっち!」
そうだ、月を追いかけるゲームだった。
2人がのっちより先に走り出す。
「ま、待ってっ」
のっちは2人の後を追おうとして……、そして、ぴたりと立ち止まった。
「待って……」
(……気のせい? さっきから同じとこぐるぐるしてるみたいな……。それに、2人が変……?)
のっちはよく2人についていけない時あるけれど、いつも2人とも、どっかで気づいて待っていてくれるのだ。
――それに、後ろから、何か聞こえる気がするのは……
(のっちを、呼んでる?)
「のっち!」
はっと振り返る。
泥んこの靴をはいた、かしゆかが境内に立っていた。
「……かしゆか……!? ……こっち、本物……?」
「何言ってるん。のっちどうしてこんなところにいるの?」
その時、木の生い茂る土手の方から、がさごそと音がした。
「ひっ、何?」
2人は慌てて駆け寄り手を取る。
けれど、茂みから出てきたのは、あ~ちゃんだった。
「あー、やっぱり2人の声が聞こえると思ったあ」
「あ~ちゃん! なんでそんなとこから!」
かしゆかのまっとうなツッコミが入る。あ~ちゃんは「えへへ、ちょっとね」と流して、逆に2人に尋ねた。
「2人こそ、どうしたんこんなとこで」
かしゆかがうーんと首を捻る。
「……どうしたん、かなあ……。小説みたいな、夢みたいな……」
「夢」という言葉が出た瞬間、3人は顔を見合わせた。
のっちが口を開いた。
「これってやっぱり、夢なのかなあ」
「……でも、そしたら誰の夢? 3人とも?」
かしゆかがそう言ってのっちを見つめると、あ~ちゃんが、首をかしげながら、
「ふーん? 夢? どんな夢なん?」
そう言って怪訝に2人を見た。

最初に、かしゆかが話した。キノコと一緒に小説の中を彷徨って、最後にここに来た経緯。キノコはどこかへいなくなってしまったこと。のっちも話す。月を追うゲームのこと、何かループにはまり込んでいた気がすること、そして、いつからなぜ、そんなゲームをやり始めたのかわからないこと。
そして、最後にあ~ちゃんだ。

「でも私、あんまり夢という感じがしないんよね。いつもとおんなじことをしていただけなの」
そう前置きをして、あ~ちゃんは言った。
「小型の宇宙船がそこの林に隠してあるんよ。それでちょっと遊びに行って、帰ってきたら2人がおって……」
「ちょ、ちょっと待って」
かしゆかがストップをかける。
「こ、小型宇宙船て……?」
「ああ、2人にはまだ言ってなかったっけ。うさぎさんから、もらったっていうかぁ、結果的にゆずられちゃったっていうかぁ……」
「う、うさぎさん……?」
呆然とおうむ返しするのっちに、あ~ちゃんは、
「そうよ! あれで月にも行けるよ。地上で追いかけるより行ってしまえばいいんよ!」
そう、目を輝かせて微笑んだ。

                              ○

「……あ~ちゃんっ! なんでこんなすごいこと今まで黙ってたの!?」
「えへへ~そんなにすごいかね~」
「すごいよっ! 運転できちゃうし!」
「まあこれは勘でなんとなくね」
「勘なの…?」
2人が一抹の不安を覚えた頃、正面のモニターの座標軸の端に、小窓が開いて月の姿が映し出された。
「あ……」
のっちはその映像に見入る。なんでこんなに追いかけてしまうんだろう。一体なんのゲームなんだろう。
「もうすぐ到着よ」
あ~ちゃんが優しい声で言った。小窓いっぱいに月面が広がって、座標軸は月のある一点を目指していた。
「あそこがエントランス……あれ?」
「どうしたの?あ~ちゃん」
かしゆかがあ~ちゃんの顔を覗きこむ。
「……こんなんだったっけ」
モニターにはもう月面だけが映っている。そこには、エントランスの代わりに、瓦礫の城のようなものが建っていた。

                              ○

「……どうする?」
「どうしようか……」
とりあえず月面に着陸してはみたものの、重力も酸素もないところにそのまま出ていくわけにはいかない。
そのとき、ひゅーっと音がして、3人はいっせいに振り返った。小型宇宙船の入口が、勝手に開き始めていた。
「ひゃぁー! なんで!?」
のっちが叫ぶ。
「このままだと外に投げ出されちゃうよ!」
「何もいじってないのにー!」
ところが、完全に開ききっても、船内には何の変化もなかった。
「……あれ?」
「なんで大丈夫なんだろう……」
「のっちちょっと、外に出て見てくるね!」
「えっ! ちょっとのっち大丈夫?」
「だいじょぶだいじょぶ!」
入口をくぐって砂の上に一歩、また一歩と足をついた。大丈夫だ、息もできる。
のっちは月面に立ちつくした。暗い宇宙の、色のない地面に建つその城に、のっちは見覚えがあった。でもあれは、ゲームの中のことだったはず。……いや、今もゲームの中だったんだっけ……
「大丈夫だよ、2人とも ~」
のっちが振り返りながら呼ぶと、2人もおそるおそる出てきた。
「これ何のお城だろう?」
「中に入ってみた方がいいのかな……」
「……うん、行こう。入ろう」
のっちが言った。
あちこち崩れている城の中。まるでここで戦闘があったかのような形跡。大広間の階段を上ると、その先にさらに階段があり、さらに上ると踊り場の先にまた階段。城の中もやっぱり、のっちには覚えがあった。
(……ていうことはもしかして、塔の上まで行けば元の世界に戻れる……?)
狭い螺旋階段を上りきったところに、入口があって、この先にはあの部屋があるはずだ。
「きゃぁっ」
ふいにあ~ちゃんが足を滑らせたのか、悲鳴を上げて、のっちはあわててその腕を掴んだ。ところがその体は意外に軽くて、のっちは力を入れた分、後ろへ倒れそうになる。腕を掴んでいるはずのあ~ちゃんの方を見ると、そこにはのっぺらぼうの、マネキンの顔があった。
「えっまさかまた……」
倒れそうになったまま、もつれて部屋の中へ足が一歩、入る。
そしてもう一歩足をついた。

……大丈夫、息もできる。
のっちは月面に立ちつくした。城を見上げる。
「大丈夫だよ、2人とも ~」
2人がおそるおそる出てきた。
「行こう。入ろう」
のっちが言った。
見覚えのある城の中を、のっちを先頭に進む。
狭い螺旋階段を上ったところに、あの部屋があるはずだ。階段を上りきる寸前、のっちは急に、思った。
(……なんか、なんだこれ、すごいやな感じ!)
何かおかしい。なんだかわからないけど……
「……もう、こういうの、たくさんなんだよー!」
のっちは叫んだ。
と、その腕を誰かの手が両側から引っ張った。
(落ちる……!)
思った瞬間、のっちは宇宙船の座席の上でひっくり返っていた。
「……あれ?」
引っ張っていたのは、あ~ちゃんとかしゆかの手だ。
「だいじょぶじゃないよ! 1人で出てったら何があるかわからんよ!」
「か、かしゆか?」
「ほうよ! 出て行くなら3人でせーのじゃ」
「……こっから繰り返してたのか……」
のっちは思わず呟く。2人が首をかしげてのっちの顔を見た。
「うん、そーだね! せーので出よう」

3人一緒に踏み出した。息が出来ることを確かめる。砂の地面と、宇宙の闇にそびえたつ廃墟の城。さっきと同じだ。2人がすぐそばにいることだけ違う。
「ここ、本当に月なのかなあ。息できるし、立ってるし」
かしゆかがつぶやいている。
「やっぱり夢かねえ」
あ~ちゃんが城の方に目を向けつつ、答えた。3人が城を見つめる。
塔のてっぺんに、何かが輝いているのが見えた。あれは……
「月……?」
3人は顔を見合わせる。まさか。どうして月の上で月が出るんだろう。
しかし、それが少しゆらりと動いたとき、別の姿が見えてきた。
「……ヘルメット!?」
「……こども!?」
それはまさに、ヘルメットをかぶった子供が、塔の屋根に座っている姿だ。どこからか光が差して、てらてら黄色く反射するヘルメットが月のようだ。
子供は、屋根の上で立ち上がったかと思うと、3人の見ている前で突然消えた。
「……な、何っいまの……!」
『こっちだよ』
ふいにそんな声が聞こえた。子供の声だ。
「あ、あれっ!」
のっちが指差す。城の門へと、駆けていくさっきの子供の後姿が見えた。
「追いかけよう!」
のっちの声で、3人は駆け出した。

やっぱり城の中は、のっちの知っているのと同じだった。自然とのっちの足は、塔の最上階へ向かう。
「のっち、ここ来たことあるの!?」
かしゆかが驚いて問う。
「まあね! 夢かもしれないけど……」
「なんだか、夢の話ばっかりじゃね」
あ~ちゃんが走りながら言った。

                              ○

塔の最上階の部屋にのっちは1歩、また1歩と、足を踏み入れた。もうループはしない。そしてのっちの隣には、2人がいる。
足元に、コロコロと転がってくるものがあった。見るとそれは、ヘルメットだ。見覚えがある。これは、uの……
「拾ってくれる?」
声がした方を見上げると、10歳くらいの少女が立っていた。その顔を見て、3人は石のように動けなくなる。
「のっち……!?」
かしゆかの驚いた声が、のっちの耳にはなぜか遠くに聞こえた。――少女の顔は、幼いころののっちだった。
「ねえ、それ、拾ってくれる」
幼いのっちはこちらへ向かって歩いてきた。のっちはヘルメットを拾い上げると、すぐそばまで来た、もう一人の自分に手渡す。3人は、言葉が出なかった。今ののっちと過去ののっちが並んでいる。
「お帰り、3人とも」
ヘルメットを受け取った少女がにっこりと微笑む。
「……そんなに不思議なことじゃないでしょ? 時間や空間なんて、本当はどこにもないんだから」
「……それは……これが夢ってこと……?」
のっちがやっと口を開いた。
「逆だよ」
少女の手が、部屋の中央にある水盆を指差した。
水盆から、ガラスを散りばめたような銀色に光る球体が、天井へ向かって浮かび上がる。頂点までそれがたどりついた瞬間そこから光が水のように流れ落ちた。それとともに、城は、透きとおる乳白色に塗り変わっていく。
「今まで3人が生きて送ってきたすべてが、夢だったんだよ。これからが現実」
3人の服もいつの間にか、銀色のドレスに変わっていた。
「今までが夢ってどういうこと……!?」
のっちが問う。
「この城の外には、色んな夢や幻がごちゃ混ぜに渦巻いてる。その力を借りて、3人で“世界”を作ったんだよ。今まで3人は、その“世界”で遊んでいただけ」
少女は、天井の球体を指差した。のっちが口を開く。
「あれが、“世界”……?」
「そう。3人が作った3人のためだけの“世界”」
そう言って少女は、のっちそのものの無邪気な笑顔を浮かべた。
「でも……!私たち今まで、普通に頑張って生きてきたんよ!」
あ~ちゃんが叫んだ。
「なんでも思い通りになんていかなかった」
かしゆかが言う。
「そりゃそうだよ。なんでも思い通りになるゲームなんて誰もやらないでしょ」
「ゲーム……」
のっちが呟く。
「のっちはよくわかってるはずだよ。まだ“世界”のゲームで、あのまま遊んでいたくて、何度も同じシーンを繰り返してたじゃない」
「……あれは勝手に……っ」
「自分でやっていたの、気づかなかった?」
「……自分で……?わたしが……」
のっちは“世界”を見上げる。2人も、同じように見上げた。
3人の体がふわりと浮かび上がる。そのまま移動して、3人が水盆の周りを取り囲む形になった。
3人は操られるかのように、無意識のうちに右手を天井へと伸ばしていた。
それぞれの手のひらから光が放たれる。
それは“世界”を優しく包んだ。

                              ○

のっちが目を覚ますと、城の中は暗くなっていた。
球体が光を発しなくなったせいだ。
のっちは体を起こして辺りを見回す。部屋には銀色のドレスを着た、のっちと、すぐそばに眠っているあ~ちゃんとかしゆか。3人だけだった。
(……私たち、いつかここに帰ってくるって、きまっていたんだね……)

のっちは心で呟くと、また眠りについた。



第7話『Butterfly』へ続く
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