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――とても大事な キミの想いは
無駄にならない 世界は廻る
ほんの少しの 僕の気持ちも
巡り巡るよ――


第2話 『GAME』



「あーまた死んじゃった~」
のっちはあぐらのまま、ひっくり返った。テレビ画面には“GAME OVER”の文字が点滅している。この春から1人暮らしを始めた部屋のため新しく買ったテレビは、最近はほとんどこのゲームのためばかりに使われている。

のっちがやっているのは今大人気のRPG、『u(ユー)』だ。
ゲーマーの間ではやらない人はいないほどの人気作で、もちろんのっちも完全にハマっている。
主人公の〈u〉は、ヘルメットで素顔の半分が隠れていて、プレーヤーも彼の素性はわからない。国から与えられたコードネーム〈u〉を名乗り、犯罪者の逮捕を仕事としている。姿はまるで少年のように華奢だけど、数々の危険をくぐり抜けてきた凄腕だ。
このゲームを進めるポイントは、とにかくたくさん事件解決することである。そのたびにストーリーを進めるヒントがもらえる仕組みなのだ。しかも事件解決の方法は毎回違って、ミニゲームになっていたり、謎解きだったりと何十種類もある。マニアの間では事件コンプリートが流行るくらいだ。

さらに、のっちがこのゲームを好きな理由は、サブキャラの存在である。
RPGのパーティーにしては少ない2人の仲間だけれど、この2人がのっちは大好きなのだ。
1人は、魔法使いの〈エミー〉。爆弾のような広範囲の攻撃魔法と、回復魔法を主に得意とする。
彼女が言うには「魔導ローブ」というものを着ているのだが、どう見てもそれはボリュームたっぷりの黒いヒラヒラドレスである。
uがバイクに乗るときは、サイドカーにエミーを乗せるのだが、その時ローブのスカートがサイドカーからモコッと溢れ、風にばさばさはためくのが、のっちの最高のお気に入りだ。

もう1人の仲間は、〈パフ〉。
パフは銀色の毛のすばしこい小動物で、ふさふさの長いしっぽをしている。ドラゴンの血を受け継ぐ動物らしいが、見た目はほとんどフェネックにしか見えない。
いつもuの肩に乗っているが、実は人獣という種族で戦闘の時だけ人間の女の子に変身する。武器は弓矢と盾の呪文だ。
のっちのお気に入りは、彼女が動物から人間に変身するときくるっと回転して、長い銀色のサラサラヘアーがきらきらとなびくところである。

今のっちは、事件を5つ解決したところだ。ここへきてどうやら、uが犯罪者逮捕をしている裏には、大きな組織が別の目的を持って糸を引いているらしいことが見えてきた。これからストーリーがぐっと進みそうなところだ。
なのに、ここでなぜか、ぱったり事件に遭遇しなくなってしまった。
手がかりは、無くもない。断崖絶壁の谷間に隔てられて行けない、東の土地。バイクはある程度ジャンプが利くけれど、そこを越えようとすると、落っこちてゲームオーバーになってしまう。

「あっれー。やっぱりさっきの街になんかあったのかなあ?」
のっちは右手の人差し指をテレビ画面の下の方にかざした。指先の示す方向に画面が反応して、選択肢の記された小窓が開く。
「バイク」を選択すると、さらにその横にピコッと出てきた「のる」「メンテナンス」「カスタム」のうち、「のる」を指差した。

真っ黒なゴツいバイクに乗って駆けるときは、両手の握り拳をつき出し、腕をハンドルのように動かして操作する。まるで本当に乗っているかのような臨場感が得られる。
だが、目の前に広がった森の茂みを避けるのに、ハンドルを切ろうとすると、操作が利かなくなっていた。
「あれ? あれ?」
のっちはそのまま茂みにつっこんで、空に投げ出された。
「うわーっっ」

「u……u、起きて~」
のっちが目を開けたとき、そこにはあ~ちゃんの顔があった。
「あれ……? ここどこ? あ~ちゃん」
「あ~ちゃん? 何言ってるのよ」
跳ね起きると同時に、自分が倒れていたことに気づいた。辺りは、緑が生い茂る森の中だった。
「打ち所悪くておかしくなっちゃったんじゃないよね?」
のぞき込んでくるあ~ちゃんを見ると、その格好は、エミーそのものの、黒いヒラヒラドレスである。
「……あ~ちゃんなんでエミーのコスプレしとるん……?」
「だからぁ、『あ~ちゃん』て何よ。まさかほんとにおかしくなっちゃったの? u。」
「ユー……」
「そうよ、u。あなたの名前よ、わかる!?」
「……あたしがu!?」
のっちが叫ぶと同時に、うしろから口がふさがれた。
「ちょっと! 誰が聞いてるかわからないんだから、『あたし』なんて叫ぶのやめてよu」
「、、、むー、んむー!?」
口から手が離されて、その手の主を振り返る。銀髪のサラサラヘアーの、かしゆかがそこにいた。
「uが女の子だってことは、3人だけの秘密でしょ。わかってるよね、u」
「お、……女の子」
(uって女の子だったんだ……ってそこじゃなくて)
「あの……かしゆか……?」
「uったらやっぱり変! この人はー、パフでしょ!」
うしろからあ~ちゃんの顔をしたエミーが注意してくる。
(まさか、本当にゲームの中に入っちゃったわけないよね……ドッキリとか……! でも、さっきまで、のっちはゲームをやってたのに?)
「あぶない!」
かしゆかと全く変わらないパフの声が叫んだ。
バイクがぶつかった衝撃で折れた木の枝が、重さに耐え切れず落ちようとしていた。それが目の端に映ったかと思うと、瞬間のっちの目の前に、銀色の髪がきれいな扇形を描いて広がる。パフの唱える盾の呪文が森に響いた。

                              ★

(なんだったんだろーなー、昨日のあれ……)
とんとん、と肩を叩かれて振り向くと、かしゆかの人差し指がほっぺたにささった。
「今、超ぼーっとしとったよ~」
「うん、ぼーっとしとったあ」
すかさずあ~ちゃんからツッコミが入る。
「ぼーっとしとったらいけんじゃろ、今練習中よ」
3人の超音波みたいに高い笑い声がレッスン室に響いた。
今3人は、2507→2508年の、カウントダウンライブに向けてのダンスレッスン中だ。
今年の9月にリリースしたシングルが、初のヒットチャート10位以内ランクインという快挙を遂げて、今や3人は音楽業界で注目を置かれる存在となった。急にテレビ出演も増えて、なんだかまだ夢を見ているようだ。
年末に急遽カウントダウンライブも決定して、初めてのワンマンでの大きなステージに、戸惑いと期待がない交ぜになって、不思議な気持ちがする。
(こんな状態だから、白昼夢みたいの見ちゃったのかなあ)

ゲームの中でのっちは、uとして活動していた。2人と一緒に隣町に戻ったけれど何も見つからず、とりあえずセーブしてからバイクでもう一度断崖ジャンプを試みて、ゲームオーバーになった。
――そこで、のっちはテレビ画面の前に座る自分に気がついたのだ。
そのあとはなんだかもう、もう一度スタートする気にはなれず、寝てしまった。最初に普通にゲームオーバーした、そのあとの部分は、ずっと夢だったのかもしれない。だけど、なんであんな状態で急に夢を見るんだろう。
(結局何も進まなかったから、あれが本当だって証明するものは何もないし……)
舞台での立ち居地をバミる間少しの休憩を告げられて、3人はお茶とお菓子を囲んで座る。
「はい、あ~ん」
あ~ちゃんが、キノコの形のチョコレートをかしゆかにあげるフリで、自分の口に運んでいる。2人のキャーッという笑い声があがる。
「これのっちに似とるねえ」
かしゆかがのっちの顔の横にチョコを並べた。
「キノコカットです」
のっちがそう答えて、また笑い声が響く。周りのスタッフの太い笑い声も混じる。
(そうだ、キノコ……!)
のっちは唐突に思いついた。
ゲームの中に入っているとき、1つだけ変わったことがあった。隣町に行ったときに、話を聞いてみた宿のおばさんと仲良くなって、キノコを沢山もらったのだ。それがアイテムの中に加わっているはずだ。
のっちは、キノコをくれたおばさんの、リアルな手の温かさを思い出していた。

                              ★

「もう、これじゃキノコばっかりたまっちゃうね」
パフが肩をちょろちょろ駆け回りながら言う。
もう何度も同じゲームオーバーをして、同じところをぐるぐるしている。
誰に話しかけても同じ返事しかしないし、宿のおばさんはひたすら毎回キノコをくれる。
増え続けるキノコの数だけが唯一の変化といえるかもしれない。

あと、パフとエミーの2人だけは、本当にあ~ちゃんとかしゆかのように、いろんなことを言ってくる。
それ以外はまるで、自然現象まで同じ時間を繰り返しているようだ。

「やっぱり、崖を隔てた東の土地に行くことなんだよね、きっと」
そう頷くエミーをのっちことuは、まじまじ見つめてしまう。
「u、どうかした?」
「あ、いやいやなんどぇもぬぁいっ」
動揺で噛みまくると、2人がきゃははっと笑った。その声まで完全にあ~ちゃんとかしゆかそのものだ。
(のっちが元々エミーとパフお気に入りだったのは、あの2人に似てたからか~)
「も~またぼーっとしてー。最近変だよu」
背中からの声に振り向くと、いつのまにか人間の姿に戻ったパフに人差し指でほっぺを指された。その姿もまるっきり、ぱっつん黒髪をプラチナブロンドに色だけ変えたかしゆかである。
(しかし、これは似てるっていうか瓜二つすぎるよね……。やっぱり私の夢なのかなあ……でもちゃんとキノコは増えてるし……)
「こらぁ、まだぼんやりしてるぅ。uがそんなだと、いつまでも時間が止まったまんまだよ~」
「えっ……」
エミーの言葉にのっちは驚いて、思わず声をあげた。
――ゲームのキャラクターが、ゲームオーバーしてはセーブポイントへ巻き戻されるその繰り返しを把握してるなんて、そんなのアリなんだろうか。
エミーは一瞬、はっとした顔をした。
「……な、なんちて~。何言ってるんだろうね私ったら!」
「……ほんと~!エミーまでボケちゃって!」
乾いた笑いで流そうとする2人に、のっちは黙っていられなかった。
「ちょっ待って待って! なんで誤魔化そうとするの!? 2人は気付いてるの?」
エミーとパフは気まずそうに視線を交わし、やがてパフが口を開いた。
「……uはいいんだよ、プレーヤーだから。私たちはただのパーティーなのに……」
「たぶん、仲良くなりすぎちゃったのよ、私たち。プレーヤーとシンクロしちゃったんだ」
エミーが呟くように言う。
「プレーヤーって……どういうことかわかるの?2人とも?」
自分が作られたゲームの中にいることを、2人は知っているっていうんだろうか?
「ううん、私たちが知ってるのは、この世界で自由なのは、プレーヤーのuだけってこと」
「uのために、この世界はあるの」
……のっちは絶句した。
――uじゃない、私だ。
のっちの、ゲームへの気持ちが強すぎて、こんなことになったんだ。
「だから、あ~ちゃんとかしゆかなのかぁ……」
「ねえ前から言ってるそれ、一体誰なの?」
「あ、えっえーと、夢の中に出てきた子達!」
言ってからのっちは、あれ、これじゃあべこべだ、と思う。あっちが現実でこっちが夢で……

――いや、逆だった?

                              ★

――はちじ、はっぷん!

テレビから聞こえる声を、歯みがきしながら聞き流している。
今日は本番1ヶ月前のリハ。もうあんまり、ゲームするにも夜更かしはできないな……とのっちはぼんやり考えた。

いつも朝の占いは、おとめ座と山羊座とみずがめ座をチェックする。
昨日はかしゆかの山羊座4位が一番良くて、のっちのおとめ座が9位、あ~ちゃんのみずがめ座が10位と、あまりぱっとしなかった。
「今日は1位でお願いしますよ~」
ところが、
「あ、あれ?」
山羊座4位、おとめ座9位、みずがめ座10位……

ちょうどその時アナウンサーが、師走の始まりを告げた。
「まさか、こっちまで繰り返し……?」

                              ★

「繰り返しでも、怖くないよ。uを信じてるから」
エミーの言葉にuはぐっと頷く。
「でもやっぱり、どこかへ進まなきゃだよね。」
uが言うとちょっと離れたところで何かごそごそしていたパフが振り向いた。
「ね……キノコ食べない!?」
「え……?」
「キノコ……?」
唐突な誘いに2人が固まる。
「だって、どんどん貯まってくし、食べて気分転換した方が良いかもよっ」
「……よーし! バター焼きにしてあげよう!」
パフの言葉にすっかりのったエミーの魔法で、あっという間にきつね色のバター焼きが出来上がる。
「お~いしそう~! いっただっきまーす」
一番に口に運んだuは「ほいひい~」と叫んだあと、急に動かなくなった。
「……ゆ、u……?」
「まさか、毒じゃないよね?」
「……ち……力が沸いて来たー!!」
「えええっ!」
2人が驚いて見ている間に、uは立ち上がり、近くにあった木を引っこ抜いて頭の上に掲げてしまった。
「な、何してるのu!」
「わっわかんないよー! 力が有り余って何とか使わないとしょうがないんだよう」
「ま、まさか、このキノコのせい……?」
つぶやくパフの顔を、2人が思わずはっと見る。
「そうだ、そうに違いな……あ、あれ?」
uの表情が凍る。
「力が抜けてってる……みたい?」
「え……?」
2人の笑顔も凍る。
「uーー!!」

                              ★

点滅するGAME OVERの文字。
のっちは、画面の前に座る自分に気がついた。
「……あれ? リハの日なのに、なんで私ゲームなんかやってるの!?」
時計を見ると、12時30分だ。
「いかーん!! 大遅刻だああ、どうしよう」
だが、そのとき台所のすりガラスの向こうが目に映った。真っ暗だ。
「……まさか、夜の12時?」
携帯を開いて見ると、飛び出してくる立体画面に、12月1日と表示されている。ウェブカレンダーだから、くるうはずない。また、戻ってる。最初に入り込んだあの時に。
のっちはテレビ画面を見つめて、怖くなった。
――どうしよう。もう、やめたほうがいいのかも。
GAME OVERになると巻き戻されてしまうなら、ゲームじたいしなければいいのかもしれない。
――でも、あの2人は?
エミーと、パフ。2人は止まった時間の中に取り残されてしまう……?
エミーとパフがもともとあんな風だったのか、のっちの思い入れのせいで命が吹き込まれてしまったのか、本当のところはわからない。こうやってこっちに帰ってきてしまうと、2人が本当にいたのかどうかも曖昧になってくる。でも……
――怖くないよ。uを信じてるから
エミーは、そう言ったのだ。

                              ★

「もう一度、挑戦してみようか」
「でも、同じことしてたんじゃ、あの崖は越えられないってわかってるし……」
uの言葉に、肩に乗ったパフが唸る。
「実は、ひとつ考えてることがあるんだけど……」
その言葉にぱっと目を光らせる2人に、uは焦って言い訳するように、
「あ、いや、でもでも、もしかしたらできるかなーって思うだけで~……」
「いいのよそんなん!」
エミーが明るくさえぎった。
「今までだって、そうやって試してきたじゃない。どんどん試して、何度失敗しても、また次が思いつくことが大事じゃろ!」
感心して聞いていた2人は、最後の語尾に、ぴたっと固まった。
「……じゃろ? 何いきなりその言葉遣い!」
きゃっきゃと笑うパフだったが、uはまだ固まったままだった。
「ほんとだあ、どうしていきなりそんなこと言っちゃったんだろう? 私。……ま、いいか」
エミーも自分で不思議そうにしている。uはひとり、心臓が鳴るのを抑えられずにいた。
――あ~ちゃんに近づいてきてる……。
そういえば、こうやって繰り返している間、向こうの世界はどうなっているんだろう?
「それより、uの考えてることって何?」
パフに顔をのぞきこまれて、uははっと我に返る。
――そうだ、今はとにかく越えることだ。
「それが……キノコなんだ。」

u愛用のサイドカーつき、ごつい真っ黒なバイクにできるメニューは3つ、「のる」「メンテナンス」「カスタム」。
「カスタム」を選択すると、他でゲットしたパーツをバイクに組み入れることができる。そしてこの「カスタム」、バイクのパーツらしいものでなくても、ほぼ無制限に可能なのである。食べ物や衣服、がらくたみたいなものまで何でもくっつけられる。ただし、見た目はめちゃくちゃになるけれど。
「これ……は……」
そして、今3人の目の前には、「キノコバイク」が堂々たる存在感を放っている。
「……ださい……!」
後輪と座席の間あたりから、大きなキノコがしっぽのように、ファンシーな姿で突き出している。バイク自体がまったくファンシーでないので非常にアンバランスである。
「いやいや、ださいなんて言ったらいけんよ。このキノコ様にかかっとるんよ」
「エミー、またそのしゃべり方!」
「……あれ?」
uはまたどきっとしたけれど、気を取り直してバイクの調整を仕上げる。
キノコを食べたときのuのパワーアップの仕方は半端じゃなかった。ただし効果が切れるのも早かったけれど。でも、崖を飛び越える一瞬だったら、いけるんじゃないだろうか。
3人は最後にキノコに向かってぱんぱんと拍手を打って拝んでから、バイクに乗り込んだ。
「いっくよー!」
エンジン音が広い草地に鳴り響く。目の前には切り立った崖、その向こう10メートルくらい離れた先に、陸地が見える。
「いざ、東へ!」
uの声とともに、バイクはものすごいスピードで発進した。
「きゃーーー!!!」
3人の叫び声とバイクの轟音。崖ギリギリで慌てて前輪を浮かせる。思った以上に上向いて、重力にひっぱられそうになるのを感じた。
「きゃーーー!!!」
そして、不思議な浮遊感とともに、3人は音が完全になくなるのを感じた。
……だが、次に訪れる衝撃が、すべての音をよみがえらせた。
「わー!わー!わー!」
「なになになにどうなったのー!」
「ぎゃーー!」
呆然としたところから、いっきに我に返った瞬間、3人が同時にしゃべり出す。そして、同時に沈黙した。
「……着地してるーーー!!!」
目の前には、見たことのない広い大地。草木が少なく、乾いた土地だ。
「こ、これから、どうする?」
「行けるとこまで行っちゃわない?」
目を白黒させているuに、エミーは楽しげに告げる。
「ていうか、そうするしかないみたいよ。キノコたっぷり食べさせすぎたみたいで、まだ効果切れとらんみたい」
「あはは、ほうじゃ」
uは、気づいた。パフもまた、かしゆかに近づいてきている。でももう、それも当たり前のことにも思えてきた。
「よーし! とばすぞー!」
「もうとばしてるよー!」
高らかな笑い声が広い空にはねかえり、3人はどこまでも続く道なき道を疾走した。

たどり着いたのは、古いお城だった。
砂風にさらされて、城壁のあちこちが崩れ落ち、ほとんど廃墟だ。
「これは、いかにも……」
「ラスボスがいそうじゃね……」
すっかり広島弁が定着しているエミーとパフの会話を聞きながら、uは門へと歩き出した。
城の中も、あちこち崩れていた。もしかしたら、風化しただけじゃなくて、何かここで戦闘があったのかもしれない。でも今は、雑魚モンスター一匹と出てこない。
大広間の階段を上ると、その先にさらに階段があり、さらに上ると踊り場の先にまた階段。次々に上っていくうちに、どうやら3人は、塔の上に続く階段を進んでいるようだった。そして3人は、四方に大きなステンドグラスの窓を配した、丸い部屋に着いた。
「……ラスボス、いないね」
パフがぽつりとつぶやく。
部屋にはほとんど物がなく、ただ、中央に小さな、長い脚付きの水盆があるだけだ。
なんとなく近づいて見ると、水盆の中には、何かステンドグラスに似てきらきらした球体が沈んでいた。

「壊して」

それは、子供の声だった。突然聞こえたそれに、3人があたりを見回すと、誰もいなかったはずの部屋の奥に、窓を背に立つ、子供の姿があった。逆光で顔が見えない。パフが警戒して人間の姿をとった。

「その球は、向こうの世界。それを壊して、こっちを本当の世界にするの」

子供の手から放たれた、3本の光る剣のようなものが、空中をすーっと移動して、一人ひとりの元へ来た。3人は思わずそれを手にとる。剣の光が増した。

「もしかして、これがラスボスってこと?」
「……世界を壊すってことが?」
困惑するエミーとパフが、uを見る。uは、子供の方を見つめていた。
「……向こうの世界ってもしかして、あ~ちゃんやかしゆかや、のっちがいる世界なの……?」
子供は答えない。
「……どうしてその世界を壊さなきゃいけないの!?」
「u、決めるのはあなた」
「……え?」
「u、決めるのはあなた」
「何言ってるの?」
「u、決めるのはあなた」
子供は壊れた機械のように、もうその言葉しか繰り返さない。「u、決めるのはあなた」……

「u」
そのとき、エミーの声がuをとらえた。
「……私ね、uの言う、あ~ちゃんとかしゆかとのっちが、誰だかわかってきた気がするんよ」
「うん、私も」
パフもそう言ってうなづく。
「世界は、2つ以上あってもおかしくないってことだよね」
「他の世界に別の私たちがいてもおかしくない。この世界も、向こうの世界も、本物でも偽者でもない」
2人が、uの顔を見つめて問う。
「そうじゃろ?」
「……そうじゃ、ね……!」

uは、光る剣を天へかざした。そこから伸びた光は、壁が緩やかに集中して円錐の頂点のようになっているその一点を、まっすぐにとらえる。
エミーとパフも、それに従った。3人の光が、天井の頂点を指すと、そこから光の柱が水盆に落ちた。
「……また、夢で会おうね」
「夢の外でも、会おうね」
 2人の言葉に、uは、
「新しい世界でも、きっと、3人だよね」

そして3人は、いっしょに、光の柱の中へ入っていった。

                              ★

THE END

廃墟の画面を背景に、その6文字が、のっちの目にまぶしく映った。
まだ眠ってるみたいなのっちの脳みそを揺り起こすように、携帯の着信音が鳴る。開くと、メール着信を示す絵文字が、携帯の上に浮かんでいる。それに触れると、飛び出してきたあ~ちゃんの顔とかしゆかの顔。

2つの画面は、同時に「明日のリハがんばろうね!」と告げた。



――これくらいのかんじで いつまでもいたいよね
  どれくらいの時間を 寄り添って過ごせるの?
  これくらいのかんじで たぶんちょうどいいよね
  わからないことだらけ でも安心できるの
  マ・マ・マ・マカロニ ――


第2話『GAME』終
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コメント

今回もとてもよかったです!!!
特にラストは軽くウルッときました。

次回も楽しんで読みたいと思います^^
すごくよかったです。
尊敬します。
「新しい世界でも、きっと、3人だよね」
にすごく感動しました。
ありがとうございました。

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