――とても大事な キミの想いは
無駄にならない 世界は廻る
ほんの少しの 僕の気持ちも
巡り巡るよ――


第1話 『Plastic smile』


「それではーっ、Perfumeでした!」
大きな歓声に包まれながら、Perfumeはステージを後にした。

2506年も終わりに近づいた12月。
ワンマンライブを無事終えた3人は、幸福な疲労感とライブの興奮の名残をもてあましている。2501年に結成してから、東京進出、メジャーデビューと、時間はかかったけれど着実に前に進み続けて、今ではワンマンでチケットがソールド・アウトするようにもなった。
楽屋ではあ~ちゃんとのっちが、ひたすら「やばかった」と繰り返している。だが、かしゆかだけは、何やら物思い顔である。あ~ちゃんがそれに気付いた。
「どうしたん? 燃え尽きた?」
「かっしーげんきぃ」
のっちもペットボトルをあごに当てたまま、かしゆかの顔を覗き込んだ。
「うーん、なんか、視線を感じなかった?」
「歌っとるとき?」
のっちが問うと、かしゆかが頷いた。あ~ちゃんが笑いながら言う。
「……そりゃ、ライブじゃけんみんな見とるじゃろ! 視線だらけよ」
のっちも笑い出し、かしゆかも、つられて笑い出した。
(そうなんだけど、そうじゃなくて……なんか、あの視線、知ってるような?)

                              ☆

がくんっという衝撃がきて、目を開くと、そこは暗い車内だった。
左肩にかかる重みはあ~ちゃんの頭。さらにそのあ~ちゃんの肩によりかかって、のっちが眠っているのが見えた。
「ついたよ」
どこか安心する、マネージャー・もっさんの声に、かしゆかは、窓の外の景色が寮の前だと気付いた。あ~ちゃんとのっちを起こして車を降りる。すべすべしていて卵型の事務所の車は、誰の趣味なのか、黄色いスケルトンだ。アクセルをふかし地上10mくらいまで一気に上がると、姿を消した。

そのときふと、かしゆかは、さっきと同じ視線を感じた気がした。慌てて辺りを見回す。先に玄関ホールに入っていった2人が、「どうしたのーっ」と呼んでいる。
「うん、ちょっと先に行っとって」
暗い駐車場をもう一度見回すが、誰もいないようだ。そう思って、かしゆかが中へ入ろうとしたその時だった。
「もしもし、ゆかさんですね」
声がした方を振り返ると、若い男が立っていた。ひょろりと背が高くて、吹けば飛びそうなほど細いけれど、バンド系のおしゃれ青年だ。青白い以外に特徴はないが整った顔。
「ちょっとお話よろしいですか」
「……なんですか?」
いつもだったら、こんな夜遅くに男が尋ねて来て、相手にするような危ないことはしない。話を聞こうと思ったのには、わけがあった。……もちろん、好みのタイプだったからという理由ではない。
かしゆかにはこの男が、ロボットだとわかったからだ。

近年では人もロボットもほとんど区別がつかなくなった。それこそ、中を切り開いて見てみなければわからないほどだ。声だって、電子的にプログラムされたものではあるが、普通の人なら聞き分けられないほど肉声に近い。
だけど、Perfumeの3人は、いつのまにかそれを聞き分けられるようになっていた。
理由は彼女達のやっている音楽にある。Perfumeの歌声は、肉声をわざと加工して、電子音に近づけたものである。ロボットに施すのとは逆の作業をして生みだすその声を、歌い方に悩んだりしながら3年も聴きこむうちに、自然と、元々が肉声なのか電子音なのか、聞き分けられるようになったのだ。
ポイントは空気なのだが、単純に呼吸音というわけでもなくて、他人に説明するのは難しい。職人技に近いものだった。

ロボットに感情はない。したがって悪意もない。それに、ネットにつながっていて、ロボットに与えられたミッションが法・倫理的に許容されるものか即座に判断が下るようになっているので、人間に危害を及ぼす可能性はほぼゼロに等しい。
(それに、)
かしゆかは、思った。法規制が厳しいので、ロボットが日常生活で実際に利用されている場面は少ない。
(こんな珍しい、面白いことって、ちょっと無いよね……)
「ゆかさんにお勧めしたいお話があって来ました」
「オススメ?」
ロボットは言った。
「ゆかさんのペットに、心臓の手術を受けさせるお気持ちはないでしょうか」
かしゆかの顔色が変わった。
最近、一部のペット愛好家の間で流行中の、動物の手術がある。
心臓に機械を埋め込んで、寿命を100倍ほどまで延ばすことが出来るというものだ。さすがに人間への適応は許可されていない技術だが、動物に対しては法の網の外ということで2、3年前から流行りだした。しかし、問題視する声も多い。
たとえば、飼い主はほとんどの場合、自分の寿命に合わせて同じ頃に死ぬように設定する。ところが飼い主が早逝しまうことも当然ありうる。遺された、人間ほども長く生きる動物の引き取り手はなかなか見つからず、結局「環境センター」で処理されることも少なくないのだ。
「わたし、そんなことしないです」
かしゆかは言い放つと、玄関ホールに駆け込んだ。
(話なんか聞かなきゃよかった!)

寮の部屋でこっそり飼っているジャンガリアンハムスターのチョロちゃんとフーくんは、言葉は通じないけれど、かしゆかの大切な友達で、家族だった。
ハムスターの寿命はとても短いし、ずっと一緒にいたい気持ちももちろんある。けれど、大切に思うからこそ、かしゆかは、勝手に彼の命を左右してはいけないように思うのだ。
自分の部屋に帰って、ケージを覗き込むと、2匹はガサゴソと歩き回った。かしゆかがいない間はずっと寝ていることが多いのに、珍しい。
「今日ね、変な人に会っちゃったよ」
手をだすとよってきたチョロちゃんを、手のひらで包むと、鼻先が指の間からひくひくと出る。
(ああ、変な人、じゃなくて変なロボット、か……)

                             ☆

ところがその変なロボットは、次の日もやってきた。

かしゆかがその視線を感じたのは、授業が終わって、学校の正門を出たそのときだった。あ~ちゃんとのっちと、クラスの友達2人がおしゃべりに騒いでいる中、かしゆかは立ち止まり、振り返った。
「ゆかさん」
やっぱり、とかしゆかは思った。どこか見覚えのあるような眼差し。
「かしゆか、どうかした?」
振り向いたあ~ちゃんに、ちょっと先に行ってて、と頼むと、のっちと友達も気付いてロボットの方を見た。
「……だいじょうぶ?」
ただならぬ雰囲気を感じたのか、聞いてくるのに頷き返して、みんなを見送った。どうやらあ~ちゃんとのっちは彼が呼ぶ声は聞いていなかったらしい。ロボットだと気付いていないようだった。
「ゆかさん、こんにちは」
「前に、ライブに来てたでしょう」
唐突に切り出したかしゆかのことばに、ロボットは一瞬目を丸くした。
「ライブのとき、あなたと同じ視線を感じたんです」
「はい。見ました」
「……もしかして、あなたの持ち主さんは、Perfumeのファンの方なんですか?」
それだったら、いろいろと納得できる。まだ数台しか出回っていないロボットを自由に使っているなんて、何か特殊な立場の人で、きっとライブに直接自分で来ることが出来ないのだろう。
お金持ちすぎてきっと、ちょっと感覚がずれているのだ。かしゆかに、何かプレゼントをしたがっているのかもしれない。ちょうど今週間末が、かしゆかの誕生日だった。
ロボットがこくりと頷いた。
「だったら、迷惑ですって持ち主さんに伝えてください。チョロちゃんとフーくんは、ただのペットじゃなくて家族なんです。人間に対してしないことは、あの子たちにもしないんです」
それだけ言ってしまうと、かしゆかは背を向けて歩き出した。
と、背後で電子レンジみたいな、ピー、ピー、という音がした。
かしゆかが振り返ると同時に、今度はゴトッと、何かが地面に落ちる音。
見るとそれは、ロボットの右腕だった。
「きゃーー!!」
「あ、だいじょうぶです、すぐつけられますから」
「そういう問題じゃ……! と、とにかくこっち!」
学校なんて人の多い場所でロボットだとバレたら、大変な騒ぎになる。かしゆかは、ロボットを校舎裏の人気のない緑地にひっぱっていった。
「わあ、いいところですねえ。どんぐりが落ちてるかなあ」
ロボットらしからぬことを言っているのを、ベンチに座らせる。
「すぐつけられるって、どうやって?」
かしゆかが尋ねると、ロボットの首の左側に、小さな窓が、自動ドアのように開いた。そこから管がするすると伸びてくる。管の先にはドリルのようなものがついている。
あっけにとられて見ているかしゆかに、ロボットは、
「すみません、腕、持っててくれませんか?」
と、微笑んだ。

本当にあっという間に直してしまった腕を、何度かぐるぐると動かして調子を確かめているロボットを見ながら、かしゆかが口を開いた。
「あのね、」
「はい。なんですか?」
「あなたの持ち主さん、何か勘違いしてるんじゃないかって思う。自分が一緒にいたいからって、勝手に寿命をのばしたら、この先2人がどうなっちゃうかわからないもん。そんなことされても、私、うれしくないです。何か喜ばせようと思ってくれてるなら、これからもPerfumeのファンでいてくれるだけで十分うれしいです」
ロボットは、しばらく沈黙した。
「今以上に、何か、ゆかさんに幸せになってもらうことはできないでしょうか」
かしゆかは、ロボットの真剣な表情に驚いた。ロボットって、こんなにいろんな表情ができるものなのか。
「……じゃあ、ロボットさん、デートしよう」
「でーと?……デートですか?」
ロボットは一瞬意味がわからず検索したようだった。
「うん。上京してから、1回もデートなんてしたことなかったの。Perfumeがあるから、まともに恋愛とかしなかったから。でもロボットさんとなら恋愛とか、ないけえ、大丈夫じゃん?」
「はあ……」
「ゆかね、ロボットさんに会えたことはうれしいの。不思議なこととか、非日常みたいなこととか、何か起こらないかなっていつも思ってた。だから、ロボットさんとデートしたい!」
「そんなことで良いのでしたら」
「いいよ!プレゼントってそういうものなんだよ。びっくりさせてー、楽しませてくれたら最高!」
ロボットはしばらく、ぽかんとしているようだったけれど、それからにこっと微笑んだ。
「では、いつお迎えに行きましょうか」
「うーんと、今週の土曜日でいい? あと、お迎えじゃなくて、待ち合わせにしよ?」

                             ☆

それは、デートというより弾丸トラベルだった。かしゆかの、「どこに行こうか?」という問いに、ロボットはこう答えたのだ。
「私の行動範囲ですと、北海道まで5分を基本としていますが……」

ロボットの背に、巨大なリュックサックのように、扉のついた透明のカプセルが飛び出てきてかしゆかを驚かせた。言われるままにそこにかしゆかが入る。ちょうど顔の部分だけ丸窓になっていて外が見える。だけど、ロボットの
「じゃあ、行きますよ」
という声を最後に、窓の外は真っ白に、何も見えなくなった。

それから、どれくらい経ったかわからない。いつのまにか、かしゆかはうとうと眠ってしまっていた。カプセルの中は狭いわりになぜか落ち着いて、意外と快適だった。
「着きましたよ」
ロボットの声に目を覚ますと、目の前は、灰色と白のマーブル模様だった。それが空だと気づいたとき、ロボットが言った。
「下を覗いて見てください」
そこには、雪をかぶった石造りの町並みと、広場には大きな白いもみの木が見えた。
「わあ……」
「もう少し近寄ってみましょうか」
旋回しながら、木のてっぺんに近い辺りまで下りて行く。町の人が誰も気づかないのが、不思議だ。ロボットには、姿を見えないようにすることなんかも可能なんだろうか。
木に積もった雪がキラキラと輝いて、まるで星を飾りつけたようだ。辺りは少し薄暗くなって、小さな家々にも明かりが灯り始めている。
「そろそろ、良い時間ですね」
「え?」
「一気に上がりますよ」
ロボットがそう言うと、超高層ビルの最上階までエレベーターで昇るような浮遊感が、かしゆかの体を包んだ。
「ほら、見てください」
あわてて下を覗きこむと、もみの木の広場を頂点にして、町の明かりが三角に広がっている。
「きゃあっ!これって、これって……」
歓声をあげるかしゆかに、ロボットが答えた。
「世界で一番大きなクリスマスツリーです」

元の待ち合わせ場所に戻ってきたとき、ちょうど3時を回ったところだった。
「こっちはまだこんな時間? ふしぎ!」
「まだ時間がありますね。今度はどこに行きましょうか」
そのとき、かしゆかの携帯が鳴った。見ると、「のっち」の表示だった。ロボットに断ってから、通話ボタンを押す。携帯の真上に、小さなのっちの顔が浮かび上がった。
『かしゆか今どこ? たった大変だよっ!!』
「どうしたの? のっち」
『かしゆかのハムスターがいないの! 今みんなで探してる!』
「えっ!! ケージにいないの!?」
『そう、早く帰ってきて~』
電話を切ると、ロボットが隣に立っていた。
「帰ってしまうんですか?」
「ごめんなさい! 寮ほんとはペット禁止だから、寮母さんに見つかる前に見つけてあげないと……!」
「大丈夫ですよ」
「本当にごめんなさい! 今日はありがとうございました、本当に楽しかったです」
かしゆかは深く頭を下げてから、駆け出した。
「ゆかさん! 待って……」
「行かなきゃいけないの!」
呼び止める声に、振り返ってそう叫ぶと、呆然とたたずむ姿が目の端に焼きついた。

                             ☆

寮生みんなで協力して探したのに、いくら探してもチョロちゃんとフーくんは見つからなかった。
とうとう、寮の外まで探しに行こうとして、かしゆかは、玄関口で、その姿を見つけた。
「ロボットさん……」
「ゆかさん……、ゆかさんは2匹に、帰ってきてほしいのですか?」
「帰ってきてほしい! 本当に大切なの」
「……でも、このままだったら、このままいたら、ずっと長く側で見守ってあげられるし、ゆかさんの夢をたくさん叶えてあげられるんです」
「え……なに? 何言ってるのかわからないよ」
「それでも、ハムスターの方がいいんですか」
「……私、2人に帰ってきてほしいよ……自分の夢は自分で叶えるもん。とにかくチョロちゃんとフーくんに帰ってきてほしいの!」
かしゆかがそう言うと、ロボットは、ゆっくりと微笑んだ。
「わかりました、大丈夫です。ゆかちゃんも僕たちも、この1年いい子にしていたから」
その微笑みの曇りのなさに似合わない、異常を告げる発信音が鳴った。
――あ、やっぱりこの人の目、私知ってる……

がごん。

落ちたのは、やはり右腕。かしゆかは拾い上げて、手渡そうとする。
「ロボットさん、腕が……」
ロボットは、微笑んだ顔のまま、微動だにしない。
「ロボットさん?」
その時だった。
「「かしゆか!」」
背後からあ~ちゃんとのっちが走ってきた。
「ハムスター、見つかったよー!」
「いつのまにかケージの中にいたの!」
「嘘!?」
かしゆかは2人を振り返った。たしかにさっき、中にはいないことをしっかり確かめたのに。
「ほんとにわっけわかんなくて!」
息を切らせてのっちが言う。
「誰かのいたずらかと思ったけど、そんなことする人いるわけないし、そんなんたぶん無理じゃろ……、って、かしゆか、何持ってるん?」
あ~ちゃんの問いに、かしゆかは、ロボットの右腕を持ったままだと気づいた。
「あ、これロボットさんの……」
振り返ったかしゆかは、そのまま言葉を止めた。
「ロボット? なんでロボット?」
「ロボットがここに来たの??」
そこにはもう彼の姿はなかった。

                             ☆

夕食のあとにあった、サプライズの誕生祝いに、浮き立った気持ちのまま、プレゼントを抱えてかしゆかは部屋へ帰ってきた。部屋の片隅に置かれている、ロボットの腕が目にとまる。
「なんだったんだろう、ロボットさん……」
あんな大事なものを置いていってしまって、大丈夫だろうか。次に会ったら腕をつけるのを手伝って、それからたくさんお礼を言おう。あんなに楽しいプレゼントだったのに、おざなりになってしまったから。
ふいに、あのどこか懐かしい視線を感じた。見回して、その視線の主を探す。……チョロちゃんとフーくんが、こちらを見つめていた。
――あ、そうか。あのロボットさんの視線は、2人が見つめてくる感じに、似てたんだ。
「えっ……まさか!?」
そういえば、あのロボットは最初から、2匹のことを知っていた。内緒で飼っているから寮生以外誰も知らないはずなのに。どうしてそのことに、今まで疑問を持たなかったんだろう。
「……チョロちゃん? フーくん?」
見つめる2匹に近づき、見つめ返しながら、呼んでみる。
4つの瞳と2つの瞳の放つ光線が、重なり合って、つながる。――
チョロちゃんが、かしゆかの方に近づき、鼻をひくひくさせた。フーくんは、千切った新聞紙の山の中に頭を突っ込む。
「まさか、そんなわけないよね。」
かしゆかは、2匹が遊ぶのを、優しく見下ろしていた。

                              ☆

2日後の、クリスマスの朝、かしゆかが目を覚ましてカーテンを開けると、目の前が白く輝いた。
「ホワイトクリスマスだ」
――ゆかが1年間いい子にしてたから、サンタさんからのプレゼントかな?
ロボットの言葉を思い出して、心でつぶやいてみながら、振り返る。
そこに置いてあったはずのロボットの腕が、どんぐりのたくさん入った袋に代わっていることにかしゆかが気づくのは、もう少し経ってからだった。



――これくらいのかんじで いつまでもいたいよね
  どれくらいの時間を 寄り添って過ごせるの?
  これくらいのかんじで たぶんちょうどいいよね
  わからないことだらけ でも安心できるの
  マ・マ・マ・マカロニ ――


第1話 『Plastic smile』 終
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コメント

率直な感想とてもおもしろかったです。
ストーリーセンスもあると思うし、なんといっても僕の大好きなPerfumeが主題のストーリー最近Perfumeが出てくる物語ないかなとおもっててどんぴしゃでした^^

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